風邪、ひきました








今日はどうも調子が悪い。立っているだけで身体の節々が痛く、喉もひどく痛む。
いや、調子が悪いのは昨日からだった。
少しばかりせきが出たが、誘われるままカラオケに行きその後もゲーセンへはしごしたのが悪かった。
「大したことないと思ったんやけどなぁ」
ダメだ、我ながらひどいかすれ声、こりゃ相当喉が腫れ上がっているのだろう。
額に手を当ててみるとどうも発熱しているような熱のこもった感覚がある。
時計を見るとゆうに9時を回っておりすでに一限は始っている時間。
どうせ遅刻だし。
学校行く気も早々に失せ、今日一日大人しく寝ていればすぐ治るだろうと思い姫条は再びベッドに身体を沈ませた。


ブルルルル・・・・



本日何度目かのメールを知らせるバイブ音が部屋に響く。
だるくてしょうがないまぶたを押し上げ姫条は枕元に置いてある携帯を手にとった。これのおかげでさっきからきちんと寝れていない。
退屈な授業のヒマつぶしをかねてメールをうってくる女友達、「今日どーしたの、サボリ?」と内容はみな同じだ。届いたメールにはすぐ返事。こんな状態でもマメな自分が少しばかり恨めしいが性分だから仕方ない。それよりも昨日一緒に遊んだ女友達に風邪であることをつきとめられ、見舞いと称し、よってたかって家に押しかけられるほうが迷惑だった。
姫条は親のいない気ままな一人暮らしだが、自分の部屋に人を入れたことは今までに一度も無い。男友達にはたまり場にされるのが目に見えていたし、女友達からはせがまれることがあっても「今ちらかってるから又今度な」とかわしていた。
誰とでもうまく付き合えるような八方美人なヤツほど実はガードが固かったりする。
自分の本心を笑顔や軽口でごまかし、ある一定の領域以内にはなかなか他人を踏み込ませない、自分もそれの典型だ。
他人を信用していないというわけではなく、何かと重い関係が面倒でまたそう思われるのがいやなのだった。人との付き合いなんて煩わしくない楽しいものであればそれでいい。
そうしていくには自分自身がそういう役回りを演じる必要もあった。
メールの返事には全部「学校メンドイ、サボリ」と適当に誤魔化して送っておく。彼女達のことだ。風邪である事がバレたらそれなりに心配して見舞いに来てくれるだろうが、騒ぎながら部屋の中を物色したあげく、看病にかこつけて弱ってる自分は襲われてしまうかもしれない。恐ろしい・・。
それくらいノリの軽い女友達らは遊ぶには最高だがこういう時は勘弁だ。悪化するのが目に見えている。


あらかた返事をし終えたところで一息つくと、どっとだるさと眠気が姫条を襲った。
携帯の電源切って寝てしまおうか。
しばらくの間ベッドの中でゴロゴロ悩んでいると、ふと一人の少女が脳裏に浮かんだ。クラスが違うから今日自分が休んでる事はまだ知らないかもしれない。彼女にはサボリだと思われたくない。
「実はカゼで休み。めっちゃツライわ〜」と正直にメールを打ち、少しばかりかすかな期待をかけて姫条は送信ボタンを押した。




コンコン、


ドアをたたく音がして姫条はぼんやりと目を覚ました。
元々倉庫だったこの部屋にはインタンホーンなるものがない。
あれからメールもいいかげん止み、いつの間にか寝てしまったようだ。
「今何時や・・」
時計を見ると3時を回ったところ。学校は終わっている頃だった。ってことはもしや・・!
一気に覚醒してドアに駆け寄る。一呼吸置いて「誰や」と声をかけると
ですけど」
と遠慮がちな声が返ってきた。
やっぱり!自分が風邪であることを伝えたただ一人の相手。
もしかしたら、もしかしたら、見舞いに来てくれるかも―と期待していたら本当に来てくれた。
「ちょっと・・まってや・・」
普段からマメに片付けているので部屋の問題は無いが、この寝起きの顔とボサボサの頭はどうにかしないと、姫条は急いで洗面所で身支度を整えてからドアを開けた。
玄関先に佇んでいたのはやっぱり
「ゴメンね、起こしちゃった?大丈夫?」
見上げてくるの顔は本当に自分を心配してくれている表情。
「いやー・・来てくれてうれしいわ、ささ上がってや」
正直にメールしといてよかったなぁとしみじみ思う。は姫条が普段遊んでる女友達たちとはどこか違う。どう違うのかはっきりとは分からないが少なくとも姫条はそう区別していた。
「おじゃまします、あ、コレ」
クツを脱ぎながらは姫条の目の前に持っていたスーパーの袋を差し出した。なにやらネギとか卵などが入っている。
「姫条、声辛そうだね・・待ってて、今おかゆ作るから」
「ホンマに!?そら感激や、ちゃん天使に見えるわ―・・・・って自分料理できんの?」
以前、自分が作ったチャーハン弁当をは「エライねー、スゴイねー」を連発し、それは感心して食べてくれたのだ。ついでに「わたしにはムリだね、こんなん作るの」とまで言ってたような・・。
一瞬空気が重くなった。
「・・・・・もう初、挑戦ってカンジ」
そういえば今日は朝から何も食べていない。おかゆと聞いて空腹感があることに気付いたが、自分はまともな食事にありつくことができるのだろうか・・・。一抹の不安を抱えた姫条だが
「がんばるから!姫条は寝てて」
自分のためにはりきっておかゆを作ってくれようとするに言えることは何も無かった。









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