、遅いな・・。
掃除は終わり葉月は自分の席でゴミ捨てに行ったまま戻ってこないを待っていた。
今日はモデルの仕事はお休み。
一緒に帰ろうと思っていたのだが。
「アイツらー!今度いつ仕返ししてくれよう!姫条、落とし穴掘るの手伝ってよねー!」
ちゃんが望むんならいくらでも手伝うけど、あの子は仕返しなんて考えんやろ」
「だから私がやるのよ!」
何やら大声でまくしたてながら違うクラスの藤井と嬉条がどかどかと入ってきた。
姫条の手にはさっきが持っていったゴミ箱。
なんであいつが。
は?」
「おう、葉月。ちゃんなら今保健室や」
「・・ケガでもしたのか」
眉をひそめる葉月に
「ちがうちがう!アンタのファンにやっかまれてーふがっ!」
パンと姫条は藤井の口をふさいだ。
「あほう、そんなん言わんでもええことやろ。あー、葉月、なんやちゃん今水かぶってもうて困ってんのや。ジャージ入ってるか確認して鞄持ってってや」
「わかった」
の鞄を手にとると確認するのももどかしく葉月は教室を飛び出していった。
水をかぶった?何でそんなことに。


ガラっ
保健室のドアを開けて葉月は固まった。
「うわっ葉月!!」
ずいぶんと濡れたようで、は上を全部脱いでタオルだけ巻いているという姿であった。
慌ててドアを閉め鞄を渡す。
は逃げるように奥のベッド室へ行きカーテンを閉め着替え始めた。


まずい、俺・・赤くなってるな、きっと。
なるべくベッド室が視界に入らない所へ移動する。
それでも先ほどの光景が思い出されて葉月はうつむいた。
・・泣いてた?
普段見せない表情を浮かべていたような気がする。瞳が潤んでるように見えたのは、あれは水ではないだろう。事態がよく飲み込めないまま心配して保健室に来たが。
(アンタのファンにやっかまれてー)
途端に思い出されるさっきの藤井の言葉。
嬉条にさえぎられてよく聞き取れなかったけど、なんとなく分かった。
モデルをやるようになってから自分の周囲が騒がしくなり揉め事もたまに起こるようになった。たとえ原因が自分であろうと周りが勝手に騒いでるだけだと思い今まで関心を持ったコトがなかったが。
最近一緒にいるようになったに矛先が向いたとなっては話は別だ。
俺のせいでこんな目に・・。


胸が、痛い。


。お前だいじょうぶか?」
「あ、うん!私ボーっと歩いてて、水やりの最中に突っ込んじゃったんだよね。ホントまぬけで・・。」
はいつもと同じ口調で明るく答える。自分に気を使ってか、事の真相を匂わすそぶりすら見せない。
葉月は余計に苦しくなった。


お前いつもそうだ。
森林公園でファンに追いかけられた時も、ビリヤード場でヘンな奴にからまれた時も、そうやってなんでもないように振舞って。「無理して付き合わなくてもいい」と言った自分に「だいじょうぶ」と笑いかけてくれた。
でも、本当は。
ムリしてないのか、さっき泣いてたんじゃないのか。
。お茶して帰るか?」
「え、あ、ハイ」
自分と一緒にいるのはいいかげんいやになったかもしれないと思って誘うとはあっさり承諾してくれた。
葉月はほっと胸をなでおろした。
でもこれからも自分に関わっていけば、今回の様に自分の知らないところでに迷惑がかかるかもしれない。
が又泣くようなら俺は。

俺といるの辛くないか。
「なぁに?おごってくれるの?」
「ちがう・・・・まぁ、いい、俺おごってやる」
がいつもと変わらず笑ってくれるので、聞きたかった言葉は口にするコトができなかった。
あきらめることには慣れていて、そうして抱える痛さにも自分は慣れてしまったのにだけは違うのだと思い知る。
もう失いたくない存在になってしまっている。


いつも救われてる、俺は。
「葉月、アリガトね」
そう言いたいのはこっちの方で。
本当にお前はキレイに笑うよな。
その屈託の無い笑顔に今まで閉じこめてきた寂しさもはらわれて、自分ばかりから大切なモノをもらってる気がする。
これからは俺が守るから。
自分の事なんかで泣かせたくない、笑っていてほしい。


校門を出たところで 今日サイフ持ってきてたっけ・・
慌てて鞄をまさぐる葉月であった。





どーゆーオチやねん・・・みたいな。きっとサイフはありました。
これ、姫条はゴミ箱持ってた手でなっちんの口をふさいだのだと思われます(2個持ってたしね、彼)
書いてるとき「あああ、なっちんー( ̄Д ̄;)」とか思ってました(笑)
この話ヒロインはいかにも「恋」ですが王子は「」。
今まで人を避けていた王子の方がヒロインから与えられてるものが大きいと思われます。王子、人として成長しています(笑)
で、この後マックでなっちんに「落とし穴掘るの俺手伝ってやる」とかこっそり言うんですよ!(そんな王子はイヤだ・・)02.7.23