ミズもしたたる


やられた・・。



髪から流れる雫はけっこうなもので。上の方はかなりビショビショである。
「キャー!ごめんなさい〜」
「ホントごめんね〜」
に水をかけた当の二人組は地面に置いていたカバンを持つとタオルを差し出すわけでもなく用件は済んだとばかりに走っていってしまった。
は今週掃除当番で、ゴミ捨てに行った帰り道である。
花壇に水をあげていたという彼女達。
走り去っていく姿は嬉々としたもので、
つまりはそーゆーコトですか。
ー!」
彼女達と擦れ違いざまに奈津美が駆け寄ってくる。
帰ろうと校門を出ようとしたところを見つけたらしい。
「うっわ!どーしたのそれ。ビショ濡れじゃん!」
「ハハ・・。ちょっとね・・」
「あ!もしかして今のアイツら・・!?」
後を追っかける勢いで振り返った奈津美をはあわてて引き止めた。
「あー、いいのなっちん!大した事無いから。なんか花壇に水あげてて手がすべったんだって」
「は?!アイツら園芸部でもないのになんで水やりなんてすんのよ!それにフツーはじょうろでしょ!ホース使うかっての!!」
「ですよねぇ・・」
故意にぶっかけられた水。
ホントーもうびしょびしょだよ・・。
こんな小学生並みの嫌がらせを受ける理由には心当たりがあってトホホ、と困り顔では笑った。
同じクラスの葉月珪
容姿端麗、頭脳面積、スポーツ万能、三拍子見事そろったはばたき学園のアイドル。
入学式、あの教会の前で出会ってからは葉月を遊びによく誘った。最近では一緒に帰ることも多い。
あの葉月珪が特定の人間と親しくしているなんてそれだけで目立つし、当然の事も葉月ファンの間ではちょっとした噂になっていた。
やっかみも少なくは無い。
以前から奈津美に「あの辺気をつけたほうがいいよ」と情報をリークしてもらっていたが、彼女達とはクラスが離れていたし特に関わりを持つような事にはならなさそうだったのであまり気にならないでいた。
そんな矢先にこの仕打ち・・。油断した。
ちゃん!なんや、水もしたたるイイ女になってんで?」
「あ、姫条!」
姫条も掃除当番だったらしくゴミ箱を片手にやってきた。
「ちょっと聞いてよ!もう!チョームカツクんだよ!!」
姫条は眉をひそめた。
「あーウルサ。なにお前がそんな怒ってんのや。それよか早く着替えた方がええでちゃん。保健室行けば大きいタオル貸してくれるから。これは俺が持ってたるわ」
姫条はの手からゴミ箱をひょいと取り上げた。理由を聞いてこないのは彼らしい配慮からだ。
「じゃぁ、私のカバン取ってくる。、ジャージ入ってるよね?」
「うん。」
「すぐ取ってくるから!」
「うん。」
「自分もはよ行き、風邪ひくで」
「うん。あ、二人ともありがとう!」
姫条は「ええから、ええから」と笑った。
二人がいてくれて良かった。
自分ひとりだったら、なんだか情けなくて泣いていたかもしれない。
そう思いながらは保健室へと向かった。


校医はにタオルを渡すと「これから会議なんだ」と出て行ってしまった。
どーせ、誰もいないしと思いは上のセーラーとその下のキャミソールを脱いでタオルにくるまりながらそれらをしぼっていた。
髪が乾いてくると同時にだんだん腹が立ってくる。女子特有の陰湿さというか、はそういう事とは縁がなかったので彼女達の気持ちが分からない。

ったく・・やる事小学生並!言いたい事があるなら言えばいいし、私のことが妬ましいなら自分達だって葉月と仲良くすればいいじゃん!
・・・。
・・まぁそれが簡単に出来ないから私に当たってくるんだろうケド。

葉月の普段の態度といえば無口、無愛想、無表情と揃っててそりゃ声もかけにくい。
でもそれは見た目だけで。
葉月は別に人嫌いとかでそういう態度を取っているわけではない。
ただ自己表現が下手なだけだ。
無口ではなく口下手、思ったことを言葉にするのも感じたことを表情にするのもどちらも苦手なのだと。


思えば私は恵まれてたのかもしれないとは思う。
入学式の日、転んだ自分に葉月はぶっきらぼうながらもなんのためらいもなく手を差し伸べてくれた。
普通に親切な人だと思った。だからその後珠美から「葉月君少し怖いカンジがする。皆遠巻きにしてるよね」って聞いた時は葉月に抱いた第一印象とあまりに違うので驚いた。
自分は外部生だから中学の頃の葉月を詳しく知らない。
珠美の言ったことは多少気になったけど、自分は葉月をそんな風に思えなかったから葉月に近づくことができて。
けっこう人をからかうのが好きだったり、冗談言ったり、動物が好きだったり、葉月は全然冷たくなんかない。               


でも、私だってああいう出会いじゃなかったら、他の娘達みたく遠巻きに葉月のコト見て騒いでただけだったかもしれない。葉月の見かけだけみて葉月を知らないまま誤解して。無責任に騒がれることを葉月は一番嫌う。自分に水をかけた娘達もきっと本当の葉月を知ったら、放っておけない、遠くで騒いでないでずっとそばにいる。
好きになるってそういうコトで。
ただ近づくきっかけが無いだけで。



私にはあった、あの教会での出会い。 私もあの娘達もおんなじで、何も変わらなくて。
ただ私は運がよかっただけだ。


ヤバ・・。なんで涙なんか


ガラっ
「なっちん・・」
ドアの開く音に振り向いては固まった。
そこにいたのは丁度自分が思い悩んでいた葉月珪その人。
「うわっ葉月!!」
ぎゃーーーーっっ!
タオルにくるまってるものの、今の自分は上半身はブラのみというあられもない格好。
なっちんが来るものばかりと思ってたよーー!!
「頼まれた。コレ・・。着替えるんだろ?」
葉月はに鞄を差し出した。
「あ、ありがとう!」
鞄を受け取るとはあわててベッドの方へ行きカーテンを閉めた。
きっと奈津美はを元気付けようと葉月を使いに出したのだろう。
(ホントびっくりしたー・・・。なっちん素晴らしいお気づかいどーもアリガトウ!!でもタイミング悪かったよ!)
半ばヤケになって着替え始める。顔が熱い。
。お前だいじょうぶか?」
「あ、うん!私ボーっと歩いてて、水やりの最中に突っ込んじゃったんだよね。ホントまぬけで・・。」
カーテンごしから響く葉月の心配そうな声には又涙が出そうになった。
つとめて明るく声を出す。
本当は優しい葉月。
いつか皆がそんな葉月を知る時がくるのだろうか。


そしたら私はもうそばにはいられないかもしれない。葉月のファンってかわいい子達ばかりだもんなぁ・・。


もうとっくに着替え終わっているのに葉月の前に出て行くことが出来ない。今顔を見たらそれこそ泣いてしまいそうで。
「あの、葉月先にかえ・・」
。お茶して帰るか?」
「え、あ、ハイ」
思いがけない葉月からのお誘いに驚いて涙は引っ込んでしまった。
「『ハイ』ってなんだよ・・」
カーテンごしでも葉月がかすかに笑っているのが分かる。すぐカーテンを開けは飛び出した。
「あ、でも私上ジャージ・・」
「マックでいいだろ」
「うん。あ、今ならなっちんがバイト中かも。なんか奢ってもらおう〜」
「だな」
なんだか目の前で笑っている葉月を見たらさっきまでの不安はどこへやら、いつもの自分に戻ってる。
これから葉月と何を話そう、何を食べようとかもうそんなコトばかり考えてる。
私ってゲンキンだ・・。
取りあえず、今は目の前にある幸せが大事ということで。

「なぁに?おごってくれるの?」
「ちがう・・・・まぁ、いい、俺おごってやる」
「えぇっ!?」
「いやなら別に」
「ううん!神様、仏様、葉月様―もう超いい人―vv」
なんだろう、なんだか葉月が優しすぎる。いいのかな今こんなに幸せで。さっきまで心底落ちこんでた分神様がごほうびでもくれたのかと本気で思う。
結局どんなに葉月がモテようが、いやがらせを受けどんなに落ち込もうが、自分はどうしったって葉月が好きで。
ただ運が良かっただけでこうして葉月と一緒に帰れるくらいの仲になったかもしれないが、こんなの仲良くなったもん勝ちだと思い直す。
自分もあの娘達も、葉月を好きな気持ちは何も変わらないのだろうけれど、遠くから見てるだけじゃガマンならない。せっかく近づいた距離は自分の努力が報われてそう簡単に無くなるものではないと信じたいから。
葉月が同じように自分のコト好きじゃなくても、友達でもいい、葉月が好きなのだ。
今はこんな近くに葉月はいてくれる。


それだけで、もう
「葉月、アリガトね」
いろんな想いをこめて笑ったに葉月は不思議そうな顔して
「じゃぁ、明日はお前がおごれな」と返した。





いやはや、げに恐ろしきはおなごの嫉妬なり・・(-_-;)
ちょっと姫条兄さん男前〜vv彼が真面目に掃除をやっているのがかなり疑問ですが。
なんか皆に優しくしてもらって幸せというお話です(そうか?)
ヒロインちゃん「本当の葉月」っていうのは葉月に好かれないと見せてもらえないのだよ!気付け気づくんだ!(笑)
ではでは続きへどうじょ〜02.7.15